最新.6-3『吐き気が最高潮』


※1 この警告は作者の主観、及び偏見に基づく判断により記載させていただいております。
※2 今警告はネタバレを含みます。
・今パートは、読む方によっては大変気持ち悪く、不快になられるであろう要素を多分に含みます
・暴力的描写、差別的描写、特定のマイノリティー性癖描写を含み、そういった描写を不快に感じる方は回避を推奨します。
・本パートは全編通してフラストレーションを煽る描写が続きます。


剣狼少年「剣狼魔女、大丈夫?」

剣狼魔女「………ッ」

 剣狼魔女は彼女の使役魔である少年の剣狼少年に支えられていた。お世辞にも体力のあるとは言えない少年は、精いっぱいといった様子で剣狼魔女を支えて宙を飛んでいる。

剣狼少年「け、剣狼魔女?」

剣狼魔女「うるさいわね……ッ、平気よ。それより触手を召喚するから、私をそこに降ろしなさい……!」

剣狼少年「う、うん……!」

 必死に彼女の身体を支え、近くの触手に着地。

剣狼魔女「ッ」

剣狼少年「っと……う、うわぁっ!?」

 視界のいくらか回復した剣狼魔女は、事も無げに触手へと降りるが、剣狼少年は一緒に降りよう
として足を滑らせてしまう。

剣狼魔女(ッ、まだ体が不完全だったわ……私とした事が)

 剣狼魔女は内心で不甲斐なさを覚えながら、足元で必死によじ登ろうとしている少年に目をやる。内心でため息を吐きながら、別の触手を操り呼び寄せ、触手に彼の首根っこを掴ませて引っ張り上げてやった。

剣狼少年「あぅ……あ、ありがとう剣狼魔女……」

剣狼少年は洗濯物のように己の体を触手に預けた状態で、剣狼魔女に礼を言った。

剣狼魔女「まったく、碌に女性の手を引くもできないのかしら」

剣狼少年「ご、ごめん……」

剣狼魔女「ふん、行くわよ。あんな雑魚にこれ以上時間はかけられない」

 剣狼魔女は先の敵がいる方向に踵を返す。すぐにでも先の場所に舞い戻り、決着を着けるともりだった。

剣狼少年「だ、だめだよそんなの……!」

 しかし剣狼少年はそんな剣狼魔女をおどおどとした様子ながらも引き止める。

剣狼魔女「何?あたしに逆らう気?」

剣狼少年「うぅ……でも剣狼魔女、体がまだ傷ついたままじゃないか……それに、剣狼魔女に何かあったら僕……」

剣狼魔女「あら、生意気な事をいうわね」

剣狼少年「ぅぅ……」

 剣狼魔女の身を案じた剣狼少年だが、当の本人から厳しい言葉を返され、返す言葉を失ってしまう。

剣狼魔女(……でも、癪だけど万全な状態でないのは確かね……これ以上足元を掬われるような事は、魔女剣狼魔女の名が許さない……)

剣狼少年「け、剣狼魔女……うわっ――んぅ!?」

 難しい顔をしていた剣狼魔女に、剣狼少年はおずおずと声を掛けようとした。その次の瞬間。剣狼魔女は突然剣狼少年の首につけられた首輪を掴むと、彼の顔を引き寄せ、そして唇を奪った。

剣狼少年「んんッ!?」

剣狼魔女「んッ――ふぁっ」

剣狼少年「ぷぁっ――え……え……!?」

 突然の事態に理解が追いつかないのか、剣狼少年は目を白黒させている。そんな彼に剣狼魔女は呆れた顔で言葉を投げかける。

剣狼魔女「何を頭の悪い顔を浮かべているの。力を与えたのよ」

剣狼少年「ふ、ふぇ……?……あ……!」

 気付けば剣狼少年は己の体に、普段とは比べ物にならない力が宿っているのを感じた。剣狼魔女は口づけを通じて彼女の魔力を剣狼少年の体へと流し、剣狼少年の体の中に眠る魔力を呼び起こして、彼の身体能力を強化させたのだ。この口づけによる方法は、主と使役獣という主従関係を交わした二人だからこそできる方法であった。

剣狼魔女(……この子、やっぱりとんでもない力を秘めているわね……。少し誘いの魔力を流しただ

けで、ここまで膨大な魔力を呼び出せるなんて……)
 剣狼少年がその体に内包する魔力の大きさに、内心で感服する剣狼魔女。しかし彼を素直に評する事を気恥ずかしく思っていた剣狼魔女は、その胸の内を言葉にする事は無かった。

剣狼魔女「まったく、あなたを頼らなきゃならないなんて私も落ちたものだわ……。剣狼少年、あたしの手を煩わせたくないというのなら、あなたが矢面に立って見せなさい。私の下僕として、使役獣として、私の盾となり、そして矛を務めて見せないさいな」

 そして剣狼魔女は剣狼少年に対して改めて互いの立場を言葉にして現し、そして命じて見せる。

剣狼少年「う、うん!」

 その命に対して、剣狼少年は少し物怖じしながらも通る声で答えた。



隊員N「あぁ、まったく……ッ!」

 停戦と聞いた矢先の襲撃に、ドスの利いた声で悪態を零しながら、隊員Nは体の自由が効かない隊員Bと砲隊Eの体を引きずっている。そしてすぐに先程まで身を隠していた窪地に到着し、二人の体を窪地に引きずり込んだ。再接敵の可能性を考えれば、崖の下に降りて身を隠したいのが本当の所だったが、しかし近辺の岩肌は荒く、受け身も取れない状態の二人を無理に降ろそうとすれば、頭を打ったり首を折る危険があり、やむを得ず隊員Nは、窪地に戻って二人を隠すことを選んだのだった。
 窪地に逃げ込むと、隊員Nは改めて隊員Bと隊員Nの状態を確認する。脅威存在はこの場を去ったが、二人の状態が回復する様子は見られなかった。

隊員N「まだヤツが近くにいるせいか?それともヤツの状態に関わらず効力があるのか……何より、なぜ私は平気なんだ……?」

 隊員Nは敵の能力に対する考察をしながらも、二人を窪地の隅に押し込んで寝かせると、先程畳んだばかりの偽装シートを引っ張り出して広げ、それで二人の体を覆い隠した。

隊員N「二人とも少し我慢しろ。ほどなく1分隊が来る」

 そう発した言葉は、二人にというよりも自分自身に向けて放った物だった。先程の通信で、こちら側が異常事態に陥っている事は各所に伝わっているはず。即応体制を維持している1分隊が到着するのに、そこまで時間は掛からないはずだった。

隊員N「――ッ!」

 一刻も早く応援が到着することを願う隊員Nだったが、直後、その願いを裏切るかのように彼の五感が忌々しい気配を感じ取る。暗視眼鏡を装着して窪力から目線だけを出す隊員N。彼の目に映ったのは、空中や地面を這うように進み、こちらへと向かってくる触手の群れだった。

隊員N「もう戻って来たか……!そのまま引き込んでればいいものを!」

 再び舞い戻って来た敵の姿に、何度目かも知れぬ悪態を吐く。空中の触手が先んじて窪地の上空に飛来し、回遊を始める。姿を隠したこちらを探しているのだろう。さらに地上を這う触手達も迫っている。身を隠していてもいぶり出されるのは時間の問題だった。

隊員N「私が時間を稼ぐしかない……いや、可能ならば次こそ仕留めるッ!」

 隊員Nは自身を奮い立たせると、窪地から這い出て駆け出した。窪地の二人を守るべく、夜闇に紛れて窪地から這い出て、匍匐で進み距離を取る。ある程度距離を取った所で、隊員Nは信号けん銃を取り出し、まったく明後日の方向へ向けて引き金を引いた。
 撃ち出され炸裂した照明弾は、何も立つ者のいない地面を照らし出す。しかしその明かりに引かれて、触手の内の何匹かがそちらへと飛んだ。さらにもう一発、別方向へ照明弾を撃つ。閃光に引かれ、触手の群れが分散して行く。しかし小細工がいつまでも通用する程、敵は甘くは無かった。
 数匹の触手が暗闇に潜む隊員Nの気配を察知したのか、こちらへ向けて飛んだ。そしてまるでその触手達の意思が伝播したかのように、他の触手達が次々と隊員Nに向けて飛び出し始め、各方から襲い掛かって来た。

隊員N「小細工が利くのはここまでかッ」

 吐き捨てた隊員Nへ最初に飛び出した触手達が迫る。触手達をギリギリまで引き付けた所で隊員Nは大きく跳躍、直後、だれもいなくなった地面へ飛び込んで来た触手達が次々と突っ込んだ。
 砲撃のような土煙を再び上げた触手達を背後に見ながら、隊員Nは駆け出す。そんな隊員Nに続けて襲い来る後続の触手達。さらに進行方向には地面を這い、隊員Nの進路をを阻もうとする触手の姿がいくつもあった。
 しかし隊員Nは進路を変えず、あえて地上にいる一匹の触手の懐へ突っ込んだ。そして触手の隙を見つけてそのまま背後へと抜ける。隊員Nを触手は頭を回頭させて追いかけようとする。しかしその触手に、上空から隊員Nを狙い降下して来た触手が激突した。肉のぶつかり合うおとが響き、二匹の触手は共に地面へと倒れ伏した。
 そのまま隊員Nは同様に駆け抜け、それを追いかけようとした地上と上空の触手達は次々と激突を起こす。

隊員N「恐ろしくうまくいったな」

 背後でぶつかり合う触手達を一瞥しながら呟く隊員N。しかし触手達の包囲を掻い潜った先で目に飛び込んで来た存在に、隊員Nは舌打ちをした。
 隊員Nの進行方向真正面。そこに一匹の触手と、その頭に立つ剣狼魔女の姿があった。

隊員N(しまった、誘い込まれたか――!)

 内心で悪態を吐く隊員N。その彼の目は、脅威存在がモーションを起こす様子を捉える。その動きは先ほども受けた発光体を放つ動きだ。その動作を目視した隊員Nは、すかさず小銃を繰り出し構えると、照準もそこそこに引き金に指を掛けようとする。
 ――隊員Nの視界外から、剣を構えた少年が飛び込んで来たのはその瞬間だった。

剣狼少年「うぁ――やぁぁぁぁッ!」

隊員N「ッ!」

 頼りない掛け声と共に剣を振り降ろす少年。対する隊員Nは即座に発砲姿勢を解き、小銃を体の前に翳して受け身を取る。

剣狼少年「うぁぁッ!」

隊員N「ヅゥッ――!?」

 直後、隊員Nの両腕と体は凄まじい衝撃を受けた。そして隊員Nは目を見開く、盾の代わりとした小銃が、隊員Nの手の中でくの字にへし折れていた。
 剣狼少年のお世辞にも雄々しいとは言えないその剣撃は、しかし魔力による強化を与えられたことで凄まじい威力を孕んでおり、その威力は小銃をいとも容易にへし折ってみせたのだ。あと少し小銃の強度が足りなければ、隊員Nの体はばっさり切り裂かれていただろう。

隊員N「ッ――ふざけてる」

 手の中で折れ曲がり、銃としての役割を果たせなくなった己が得物を目にして、忌々し気に吐き捨てる隊員N。

剣狼少年「う、うぁぁッ!」

 一方の剣狼少年は、衝撃により一歩後退していた隊員Nに向かって踏み込み、二回目の剣撃を放とうと振りかぶっていた。しかし戦い慣れていない剣狼少年のその体勢は、はっきり言って隙だらけだ。

隊員N「――!そこッ!」

 あからさまな隙の多さに一瞬躊躇した隊員Nだが、振り下ろされる剣撃を退ける事には代えられず、隙だらけの少年の胴に向けて蹴りを放つ。

剣狼少年「うごッ!?」

 鋭い蹴りはものの見事に少年の腹に入り、少年は苦し気な声を吐くと共に、大きく体勢を崩す。隊員Nはそのまま反転攻勢し、少年に追撃を入れようとする。

剣狼少年「――ひぁッ!?」

 しかし次の瞬間、素っ頓狂な悲鳴と共に、視界から少年の姿が消えた。

隊員N「ッ!?」

 隊員Nが視線を上空に映すと、触手に襟首を掴まれ、身体を宙にぶらさげ狼狽する少年の姿があった。

剣狼魔女「まったく、やっぱり愚図ね。鍛錬も体力もまるでもって不足。まだまだ未熟だわ」

 そして何らかの師のように剣狼少年の動きを評する声が響く。

剣狼魔女「――だけど、あなたにしては勇気を出したみたいだし、まぁ上出来かしらね」

 そして剣狼少年と入れ替わりに、脅威存在である魔女、剣狼魔女が姿を現した。
 自分の乗る触手を操り、一気に隊員Nの前へと迫る魔女剣狼魔女。隊員Nは彼女のその手中に、不気味な発光体、すなわち魔弾が形成されているのを確認する。
 その瞬間、魔弾は隊員Nへ向けて放たれた。
 少年に向けて追撃を放とうとしていた隊員Nの体は、無防備な体勢だ。それでも視界に魔弾を捉えた隊員Nは、可能な限りの動作を行い回避を試みる。しかし隊員Nの試みた回避行動は、儚くも成果を出さずに終わった。
 撃ち放たれた魔弾は、隊員Nの抵抗をほとんど許さずに彼の鳩尾へ入り、炸裂した。

隊員N「――ごッ!?」

 隊員Nの口から鈍い声が零れる。
 恐るべきことにその衝撃は防弾チョッキを破損させ、魔弾の炸裂によるエネルギーが隊員Nの内臓を揺さぶる。腹部を中心に内臓をかき混ぜられるような不快感が襲い、隊員Nの意識が混濁する。

隊員N「か……ぁ、こほッ――」

 そして隊員Nは軽く嘔吐し、地面へと崩れ落ちた。

剣狼魔女「まったく……小賢しい奴だったわね」

 腹を抱え苦しみ悶える隊員Nの側へ、触手に乗っていた剣狼魔女が呟きながら降り立つ。

剣狼少年「うわぁっ!」

 そしてその背後で触手に釣る下げられていた剣狼少年が、乱暴に地面へ落とされ悲鳴を上げる。
 その様子をつまらなそうに一瞥した剣狼魔女は、足元で横たわる隊員Nの姿へ視線を戻すと、ようやく憎き敵を倒した事に安堵を覚えたのか、表情を変えぬまま小さなため息を吐いた。

剣魔A「剣狼魔女嬢!」

剣魔B「剣狼魔女さん」

 そこへ彼女を呼ぶ声がする。振り向いた彼女の中年傭兵や剣魔Bなど、彼女の配下の傭兵達だ。

剣魔F「お嬢様、少し突出しすぎです」

剣魔E「お、おいつくのがやっとだったよ……」

剣魔G「はぁ、はぁ……」

 剣狼魔女の周囲に彼女の配下の傭兵達が、それぞれの声と共に続々と集まって来る。内数名の傭兵は涼しい顔をしているが、大半は息を大きく切らしており、剣狼魔女一人が急激に突出していたことが伺えた。

剣狼艶女「も〜、剣狼魔女ちゃんったら一人で先にいっちゃうんだものぉ」

 そして少し遅れて、緊張感の無い声と共に別の一団が到着する。剣狼魔女と同じく副隊長格の剣狼艶女とその配下の傭兵達だった。先頭の剣狼艶女は剣狼魔女の近くまで歩み寄って来ると、足元に倒れる隊員Nに視線を向ける。

剣狼艶女「あらあら剣狼魔女ちゃん。この苦しそうにしてる、素敵なお兄さんは?」

剣狼魔女「偵察か何かだと思うわ、おそらくこの先にいる敵本隊のね。生意気にも抵抗して来て、いくらか時間を取られたわ。まったく鬱陶しい奴等……」

剣狼艶女「抵抗ぅ?剣狼魔女ちゃん、プリゾレイブ・ガーデを使わなかったのぉ?」

剣狼魔女「使ったわよ、けどコイツだけ効いてる様子が無かった。さっきのヤツと同じようにね……!」

 先程、自分に蹴りを食らわせ気絶に追い込んだ誉の存在を思い出し、イラ立ちをより募らせる剣狼魔女。憎むべき対象がすでにクラレティエにより排除されており、自身の手で甚振る事がかなわなかったことが、返って彼女の苛立ちを増幅させていた。

剣狼艶女「あらあらぁ、今回のお相手はなんだか不思議な子達ねぇ」

剣狼魔女「浸食の魔弾を直撃させたっていうのに、打撃の損傷だけで生命力を吸い出されてはいないみたい……本当に一体何なのよコイツは?」

 剣狼艶女は呑気な様子で、剣狼魔女はイラついた様子でそれぞれ隊員Nの姿を観察する。

剣艶A「剣狼艶女様!こっちにも敵が隠れてました」

 二人に声がかかったのはその時だった。二人が振り向くと、剣狼艶女配下の傭兵達の手によって、二人の人間が連行されて来る様子が見える。その二人とは他ならぬ砲隊Eと隊員Bだ。二人を隠していた急場しのぎの偽装は、傭兵達の目を欺くことは叶わなかったらしく、二人は剣狼魔女達の前まで連れてこられると、乱暴に地面へと放り出された。

剣狼艶女「あらぁ、カワイイ男の子たちじゃない」

 連れてこられた隊員Bと砲隊Eの中性的で愛らしいとも言える容姿に、剣狼艶女は緊張感の無い声でそんな感想を発する。

隊員N「砲隊E三曹……!隊員B……ッ!」

 一方、連行され投げ出された二人の姿を目にした隊員Nは、満身創痍の体で二人の名を叫んだ。

剣狼艶女「あら、この子達には術が利いてるみたいねぇ。こっちのお兄さんにだけ利いてないなんてホントに不思議ねぇ〜?」

剣狼魔女「なんでもいいわ、コイツ等だけにいつまでも構っていられない。とっとと本陣を潰しに行くわよ」

 言うと剣狼魔女は触手の一匹を操り、横たわる隊員Nに止めを刺そうとする。

剣狼艶女「あらあら、ちょっと待って剣狼魔女ちゃん」

 しかし剣狼艶女がそれを止める。

剣狼魔女「何よ?まさかこいつに慈悲を与えろと?」

 苛立ちを隠そうともしない声で聴く剣狼魔女。しかし、この剣狼艶女という女も緩やかな言葉使いに反して、敵に優しさを見せるような女では無い。

剣狼艶女「ちがうわよ〜。そうじゃなくてぇ、今回の敵は剣狼魔女ちゃんの魔法が利かない人が二人も出て来たんでしょぉ?ひょっとしたら敵にはこういう人達が他にもいるんじゃないかしらぁ?」

剣狼魔女「……検証が必要だと言いたいの?」

剣狼艶女「ふふふ、ちょっと冷静になって来た?剣狼魔女ちゃんがすご〜く怒ってるのも分かるわぁ。私だって剣狼魔女ちゃんに痛い事をしたこの人たちは許せないもの。でも、この人たちや〜、制圧して来いって言われてる村に同じ人がいると考えたら、オシオキ仕方も少し考えなきゃいけないと思うわぁ」

 ふざけた口調ながらも、冷静な意見で剣狼艶女は剣狼魔女を説く。

剣魔A「剣狼魔女嬢、私も剣狼艶女殿と同じ意見です。それに失礼ながら剣狼魔女嬢のお体は万全ではありませぬ。成果を焦らず、慎重な手段を取っていただきたく思います」

 そこへ剣狼魔女配下の壮年傭兵が出てきて、言葉を付け加えた。

剣狼艶女「ほらぁ、親父さんもこう言っているわよ?クラレティエちゃんもぉ、獲物に身中になって、敵本陣もそっちのけで遊びまわってるみたいだしぃ、クラレティエちゃんが遊び終わるまで検証時間をかけて、クラレティエちゃんと合流してからてこの人たちの本陣に向かっても遅くは無いと思うわぁ」

 剣狼艶女の言葉を聞き、少しの間黙って考えを巡らせる剣狼魔女。

剣狼魔女「……ま、少しくらい時間をかけても、さして影響はないわね……分かったわ、あなたの言う通りここは慎重に行きましょう」

 剣狼艶女等の説得により、剣狼魔女は渋々と言った様子だが、敵の検証を優先することを受け入れた。

剣狼艶女「あらあらそんなに不機嫌な顔しないで剣狼魔女ちゃん。まずはこのお邪魔虫をしてきた悪いお兄さんに、色々聞きつつ、じーっくり反省してもらいましょう?」

 そんな事を言いながら剣狼艶女は足元に横たわる隊員Nに視線を送る。彼女は口許でこそ笑みを作っていたが、その目は冷たく笑っていなかった。

剣狼艶女「さぁて、じゃあその間あたし達は周りを警戒しておくわねー。今度はイタズラネズミちゃんを剣狼魔女ちゃんには近づけさせないから安心して」

剣艶A「剣狼艶女様のお手を煩わせるまでもありません。我らにお任せください!」
 自ら周辺の警戒に出ようとした剣狼艶女だったが、そこへ配下の傭兵達が買って出てくる。

剣狼艶女「あらぁ、そぉ?それならあたしは警戒魔法に集中できるしぃ、じゃあ、お願いしちゃおうかしらぁ?」

剣艶傭兵達「「「は!お任せを!」」」

 剣狼艶女の艶の含まれたねだるような言葉に、配下の傭兵達は一斉に声を上げる。

剣艶B「よし。剣狼艶女様に近づく鼠なんて、俺が蹴散らしてやるぜ!」

剣艶A「あ、この!抜け駆けするなッ!」

 そして傭兵達は、それぞれがまるで競うように飛び立っていった。

剣艶女A「まったくしょうがない男共ね」

剣艶女B「鼻の下のばしちゃって、単純なんだから」

 一方、同じく剣狼艶女の配下である女傭兵達は、傭兵達の姿を呆れた目で見ながら呟いていた。

剣艶女A「剣狼艶女さん、あたしたちは後ろを見張ります」

剣艶女B「まだ潜んでる鼠がどこから来るか分からないですから」

剣艶女C「興奮した男たちに、そんな繊細な役割は任せられないからねー」

 口々に言う女傭兵達に、剣狼艶女は同じ調子で笑いながらそれを承諾する。

剣狼艶女「うふふ、そうね、じゃあ皆よろしくね」

剣艶女達「「「はい!」」」

 姦しかった女傭兵達も、剣狼艶女の言葉には一斉に返事を返すと、警戒のために後方へと散って行った。

剣狼艶女「さて、じゃああたしは警戒術を張っておくわね〜」

 配下の傭兵達を見送ると、剣狼艶女は警戒魔法の詠唱を始めた。

剣魔F「剣狼魔女様、無茶をなさいましたね」

 一方、剣狼魔女の元へ一人の女傭兵が近づく。この女傭兵、服装こそ他傭兵と同じ漆黒の皮服だが、頭に侍女用のカチューシャを身に着けるという不可解な恰好をしていた。
 その装着したカチューシャが示す通り、この女傭兵は剣狼魔女が身の回りの世話のために連れている、剣魔Fという名の侍女だった。

剣狼魔女「別に、ちょっと想定外の手に驚いただけよ」

剣魔F「万全な状態でないのに敵の排除を焦るからです。冷静な状態の剣狼魔女様であれば、敵の小賢しい手段も回避できたはず」

 しかし従者の立場であるにもかかわらず、歯に衣着せぬ物言いで主の行動の軽率さを指摘する彼女。

剣魔B「け、剣魔Fさん……剣狼魔女様にあまりそういう事は……」

 そんなメイドにオドオドした様子で話しかける別の女傭兵。先に剣狼魔女が誉に襲撃を受けた際に、雷魔法で誉を妨害した剣魔Bという女傭兵だ。彼女も同じくメイドを兼ねる傭兵であり、剣魔Fの後輩でもあった。

剣魔A「そうだぞ剣魔F。あまり剣狼魔女嬢に無礼な態度を……!」

 さらに壮年傭兵も続いてそれを咎めようとする。

剣魔F「黙っていてください」

しかし壮年傭兵の言葉はピシャリと一蹴。

剣魔A「う、ぬぅ……」

 一喝され、中年傭兵は次の句を失ってしまった。

剣魔F「剣狼魔女様。いつも申し上げておりますが、一傭兵ではなく一隊の、そして私たちの主である自覚をお持ちください」

剣狼魔女「はぁ、相変わらず物怖じという物を一切しないわねあなたは……確かに私が軽率だったわ、心配かけたわね……」

 しかし失礼な物言いにも関わらず、剣狼魔女は仏頂面であるものの怒って言い返すことなどはせず、剣魔Fの言葉を受け入れた。ある種の力関係が、剣狼魔女率いる一隊の中にはあったのだ。

剣狼魔女「――ッ!」

 そんなやり取りの後に息をつこうとした剣狼魔女だったが、その時、彼女は殺気を感じ取った。
瞬間、その場に連続した炸裂音が響き渡った。
 それはまごう事なき銃の発砲音。その発生源は隊員Bだ。
 彼は上半身だけを起こして9mm機関けん銃を構えており、その銃口からは煙が上がっている。剣狼魔女の術によりほとんど自由を奪われた体でありながら、彼は気力を頼りにその体を動かし、懐に隠し持っていた機関けん銃を敵へと向けたのだ。

剣魔B「キャッ!」

 しかし、隊員Bの必死の行動の直後に起こったのは、連続的な金属の掠れる音と、メイドである剣魔Bの小さな悲鳴だけだった。
 剣魔Bの前には、ナイフを片手に持った、剣魔Fの姿があった。
 その様子から、隊員Bは何が起こったのかを把握し、そして驚愕した。満身創痍の隊員Bの射撃は碌に狙いも付けられず、放たれた数発の9mm弾は脅威存在である剣狼魔女をはずれて剣魔Bへと向いたのだが、メイドの剣魔Fはそれをナイフで弾いて見せたのだ。

隊員B「ッ……!弾が……!?」

 満身創痍の体を動かし放った一撃にを防がれ、隊員Bの顔に悲愴の色が浮かぶ。

剣魔F「下品な獣がいたものですね」

 後輩をかばい弾を弾いて見せた剣魔Fは、小さくそう呟くと、手にしていたナイフを隊員Bに向けて最低限の動作で投げ放った。

隊員B「ヅッ!?」

 放たれたナイフは隊員Bの持つ機関けん銃に命中。剣魔Fの軽やかな動作からは想像もできない衝撃が隊員Bを襲い、機関けん銃は隊員Bの手を離れて大きく弾き飛ばされた。
 剣魔Fはそのまま隊員Bへと距離を詰めると、華奢な足で隊員Bを蹴り飛ばした。

隊員B「ごぅッ!?」

 もんどり打ち、前進を再び地面へと投げうつ隊員B。そんな隊員Bへ追い打ちをかけるように、彼女は隊員Bの股間を踏みつけた。

隊員B「ぐぅあッ!?」

 急所を踏みつけられ、隊員Bは中性的なその顔を苦悶に染めて悲鳴を上げる。

隊員B「う、あがぁ……!」

隊員N「隊員Bッ!」

 隊員Bの悲鳴を聞き、隊員Nは彼の名を叫ぶ。

剣魔F「お嬢様。この野良犬、私が躾けてよろしいですね?」

 対する剣魔Fは意にも介さず、剣狼魔女に振り向いてそんな確認を取る。

剣狼魔女「ええ、構わないわ」

剣魔F「では――甘美なる我が愛の鞭の虜となり、従属の喜びで体を染めよ」

 剣狼魔女からの許可が下りるや否や、剣魔Fは魔法の詠唱を行う。それは先に剣狼魔女が鈴暮に使った物と同じ、相手を強制的に隷属させる精神支配魔法だった。

隊員B「何を……うぁ……あ……」

 支配魔法を受けた隊員Bの意識は朦朧とし出し、彼の目は虚ろな物となる。

剣魔F「さぁ、ご挨拶はどうしたんですか?」

隊員B「ぅあ、は……い……」

 剣魔Fの言葉を受けた隊員Bは、一度体を起こしたかと思うと剣魔F足元へとへたり込んだ。

隊員N「隊員B!?何をしてるしっかりしろッ!」

 隊員Nが叫ぶが、隊員Bが応じる気配は無い。さらに変化は砲隊Eにもあった。隊員Bと同じく地面に心ここにあらずといった眼でへたり込んでいる。

剣魔F「ちゃんと覚えなさい、あなた達の主となる方のお姿を」

隊員B「は、はい……!」

砲隊E「ぁ……ぅ……」

 言葉と共に剣狼魔女の姿へと視線を流す剣魔F。その言葉に従わされ、二人はへたり込んだまま頭を下げ、地面に擦り付け土下座も同然の格好となった。

隊員N「隊員B、しっかりしろッ!砲隊E!砲隊E三曹ォッ!!」

 隊員Nはほぼ怒号の声色で二人の名を呼んだが、二人がその言葉に反応することはなかった。

剣魔B「ふぁ……」

剣魔E「相変わらずすごく怖いなぁ……」

 一方傭兵達はその様子を取り巻いて眺め、それぞれの感想を零していた。剣狼魔女隊の剣魔Bや剣魔Eは背徳感や恐れを感じながらも、頬を染めてその様子を見ている。

剣魔G「おお……なんと恐ろしい」

剣艶C「副隊長達に逆らうとは愚かな奴だ。まぁこれであいつらも虜になったようだが」

 剣狼艶女配下の傭兵達は隊員B達を隷属させた女達に、恐れつつも惚れ込んだような視線を向け、そして隊員B達に嘲笑の言葉を向ける。

剣狼艶女「うふふ、面白い事になってるわね〜。かわいい子が屈服する姿っていいわぁ〜、ゾクゾクしちゃう」

 そして、警戒魔法の施術を終えたらしい剣狼艶女が近づいてきて、その様子を見ながら呑気な声色でそんな感想を述べた。

剣狼艶女「それじゃあ残ったこの悪いお兄さんの事をぉ、色々と調べなきゃねぇ」

 続けて言うと剣狼艶女は、この場に残った数名の配下の傭兵達と共に、隊員Nを取り囲む。

隊員N「ッ、近寄るな汚らわしい……ッ!」

 剣狼艶女に向けて拒絶の言葉を吐きながら、握りしめた土を力ない動作で投げる隊員N。しかし空しくも投げた土は憎き敵には届かずに、パラパラと地面に落ちた。

隊員N「ぐぁッ!?」

 そして次の瞬間、隊員Nの体に鈍痛が走る。

剣艶D「こいつ!」

剣艶E「剣狼艶女様になんたる無礼!」

 剣狼艶女自身に実害が無かったにもかかわらず、隊員Nの行為は配下の傭兵達の感情を煽ったらしい。剣狼艶女配下の傭兵達が隊員Nの体を次々に蹴りつける。

剣狼艶女「ほらほら皆ぁ、その辺にしておいてあげてぇ。んもう、お兄さんダメよぁおいたしちゃあ。みんなが怒っちゃうわよぉ?じゃあまずはぁ、いけないもの持ってないか確かめておかないとねぇ。皆〜お願いね」

 剣狼艶女はふざけた様子で隊員Nに説教の言葉を投げると、配下の傭兵達に隊員Nの武装解除を命じた。


剣狼少年「けほッ……うぐぅ……」

 一方、触手に落とされた後も、隊員Nから受けたダメージが引き、しばらくへたり込んでいた剣狼少年。

剣狼暴女「剣狼少年」

 そんな彼の名を呼びながら、一人の女が近づいて来た。

剣狼少年「う……剣狼暴女」

 現れた女に剣狼少年はあからさまな苦手意識を孕んだ表情を浮かべる。

剣狼暴女「まったくいつまでへたばってる訳?」

剣狼少年「ご、ごめん……」

 謝りながらも、剣狼少年はまだ立ち上がれないでいる。

剣狼暴女「まったく!だいたいアンタ、またあの女にだらしなく鼻の下のばして発情してるわけ?」

剣狼少年「そ、そんなことないよ……僕は――うぐぅッ!?」

 剣狼暴女の言葉に反論しようとした剣狼少年だが、その前に彼の体に鈍痛が走った。

剣狼暴女「何口答えしてるわけ?このダメ犬!」

 罵倒と共に繰り出した足を引く剣狼暴女。剣狼少年の体に走った鈍痛は、彼女が放った蹴りが原因だった。

剣狼少年「げほッ!げほッ!うぅ……ひどいよ剣狼暴女」

剣狼暴女「アンタが生意気な態度を取るのが悪いのよ」

 受けた蹴りに再び咳き込みながら、剣狼暴女に苦し気な言葉で訴える剣狼少年。しんな少年に対して、剣狼暴女は当然と言わんばかりの冷たい声で言い放った。
 剣狼暴女と呼ばれるこの女は、剣狼少年と同じ村を出身とする、彼の幼馴染だった。そしてとても手が早く加虐気質な女であり、剣狼少年は幼少期から彼女の傍若無人っぷりに振り回されていた。そんな彼女が傭兵団に身を置いている理由は、剣狼少年が剣狼魔女の使役魔となった際に、剣狼少年の持ち主は自分だと反発して譲らず、そのまま付いて来たからだった。
 以来剣狼少年は、二人の加虐気質な女に振り回される日々を送っていたのだ。

剣狼魔女「雑な照れ隠し、お子様ね」

 そんなやり取りを見ていた剣狼魔女が、剣狼暴女に向けて口を開いた。

剣狼暴女「はぁ?何よアンタ?」

剣狼魔女「別に?ただ、剣狼少年の気を引こうと必死なあなたが可笑しかった物だから」

 突っかかりの矛先を剣狼魔女に向けて来た剣狼暴女に、しかし剣狼魔女は構わず皮肉を飛ばす。
 直後、剣狼暴女は言葉の前に己の獲物のナイフを取り出すと、あろうことかそれを剣狼魔女に向けて投擲した。しかし投擲されたナイフは、剣狼魔女に届く前に迎え撃つように飛んで来た別のナイフに弾かれた。

剣狼暴女「ッ――剣魔F、邪魔をしないでよ」

剣魔F「剣狼暴女。お嬢様に無礼を働くの事は、あなたといえども許しませんよ」

 別のナイフを放ち、剣狼暴女のナイフを防いだのは侍女の剣魔Fだった。

剣狼魔女「剣狼少年!そんな女は放っておきなさい。それより紅茶を用意して頂戴」

剣狼少年「う、うん……!」

 剣狼魔女に命じられた剣狼少年は、背負っていた荷物を降ろして、せかせかと紅茶の準備を始める。しかしその動きはいつにもまして緩慢で、そして剣狼少年は剣狼魔女に向けてチラチラと視線を向けている。剣狼少年本人は隠しているつもりだったが、剣狼魔女からすればバレバレの行為だった。

剣狼魔女「……何をグズグズしているの?何か言いたい事でもあるのかしら?」

剣狼少年「え?う、ううんなんでも……」

剣狼魔女「命令よ、言いなさい」

 剣狼魔女の命令の言葉に、剣狼少年は気圧されながらも口を開く。

剣狼少年「僕も、護れたかな……?」

剣狼魔女「はぁ?」

 剣狼少年の小さな言葉に剣狼魔女は怪訝な表情を浮かべる。

剣狼少年「さっき、僕にも剣狼魔女を護って、剣狼魔女の力になることができたのかな……、な、なんて思って……」

 言葉尻を小さくして、剣狼少年は気恥ずかしそうにしながら剣狼魔女へそんな言葉を紡ぐ。

剣狼魔女「………ふんッ」

剣狼少年「へ――ひぎぃ!?」

 しかし次の瞬間、剣狼少年は悲鳴を上げ、そしてまたもへたり込む。見れば剣狼少年の胸元に魔法紋が浮かび上がり発光している。剣狼少年の体に刻印された使役魔用の魔法紋が、剣狼魔女の合図に従って発動し、彼に痛みを与えたのだ。

剣狼魔女「調子に乗らない事ね。あなたはまだまだ未熟で愚かな下僕。その分際で騎士を気取るなんて、驕り高ぶりもいい所だわ」

剣狼少年「あぅぅ、そんなぁ……そんなつもりじゃ……」

剣狼魔女「言い訳は結構よ。まったく……頭が悪いとは思っていたけど、そんな愚かな勘違いまでする程だなんて。あなたにはまだまだ痛みによる躾と仕置きが必要みたいね」

 剣狼魔女は鞭を持ち出し、痛み悶える剣狼少年を膝を付いた剣狼少年の尻を鞭で打つ。

剣狼少年「うぎゃう!」

剣狼魔女「まぁ躾は後よ。ほら、いつまでもへたり込んでないで、まずは早く紅茶の用意をなさいな」

 言いながら鞭をしならせ、剣狼少年を脅すように茶の用意を急かす剣狼魔女。

剣狼魔女「……ふん」

 そして剣狼魔女は剣狼少年に気付かれないように、少し紅潮した顔をそっぽを向いて隠した。

剣取A「うわだっさぁ」

剣取B「剣狼暴女さーん、あんな冴えないヤツほっといて、アタシらで敵を片づけにいきましょうよぉ?」

 方や、そんな風に剣狼魔女に使われる剣狼少年を嘲笑う声が端から上がる。それは剣狼暴女を取り巻く女傭兵達だ。
 剣狼暴女は一部の傭兵女達からは好かれており、剣狼隊の中でも三隊長各とは別に小さな派閥を持つほどだった。その派閥の女傭兵達は剣狼少年を嘲笑いつつ、剣狼暴女へ提案の言葉を述べる。しかし剣狼魔女と剣狼少年のやり取りを面白くなさそうに睨む剣狼暴女に、剣狼少年への執着を諦める様子は無かった。

剣狼暴女「剣狼少年!そんな女に尻尾振ってんじゃないわよ!アンタの役目はアタシ達の雑用よ!」

剣狼魔女「剣狼少年、分かってるわね?早くしないとまた魔法紋で仕置きを与えるわよ?」

剣狼少年「ひぃぃん!」

 剣狼少年は女達に使われ、動き回るはめになった。



剣魔F「あの下僕がお嬢様のお世話をするようになってからというもの、少し退屈ですね」

 一方で剣狼魔女の侍女である剣魔Fは、剣狼魔女達の様子を見ながら少しつまらなそうに呟いている。

剣魔E「あ、ひょっとして嫉妬してる?」

 そんな剣魔Fに、側に立っていた剣魔Eという少年が少し揶揄うような言葉をかける。次の瞬間、バシンと人の肌を打つ音が響く。

剣魔E「おぎゃぁん!」

そして剣魔Eは悲鳴を上げる。

剣魔F「うるさいですよ豚」

 そして冷たい声で剣魔Eを罵る剣魔Fの声。彼女の手には剣魔Eを打った乗馬鞭が握られていた。剣魔Fや剣魔Bなど侍女を兼任する傭兵の護衛が、剣魔Eに与えられた役目だったが、そんな彼もまた女達に振り回され苦労している一人だった。

剣魔F「まったく」

剣魔B「あ、あの、剣魔Fさん……」

 そんな剣魔Fへ、同じく侍女兼傭兵である剣魔Bがおずおずと声を掛ける。

剣魔F「なんですか」

 剣魔Bに対して剣魔Fは特に妙味な無さげに、ツンとした表情のまま返事をする。

剣魔B「あの、さっきはありがとうございました」

 剣魔Fのそんな姿に物怖じしながらも、剣魔Bはぎこちない謝礼の言葉を述べた。先に隊員Bの銃撃から、庇ってもらった事に対して礼を言っているようだ。

剣魔F「ッ――別に……あなたのためではありませんよ」

 唐突な謝礼の言葉に、少し目を見開きながらも素っ気ない態度であしらおうとする剣魔F。

剣魔B「で、でも、助かりました!今回の事ばかりじゃないです、剣魔Fさんにはいつも助けられてばかり。出会った時からそうでした!」

 しかし剣魔Fの言葉を押し切り、剣魔Bは声量を少し上げて続ける。
 剣魔Bは元々、出身の町の館で別の主人に仕えていた身だった。そこでは酷い扱いを受けながらも、その性格ゆえ大人しく従い使える日々を送っていた剣魔B。しかしある日、傭兵任務の一環として館を訪れた剣魔Fの手により、その主人は再起不能に追い込まれ、そして剣魔Bはその日々から解放され、剣狼隊に迎え入れられたという経緯を持っていたのだ。

剣魔B「助けてもらったあの日から、剣魔Fさんは本当に私の憧れなんです!」

剣魔F「………ッ、別に、あなたがどう思おうとあなたの勝手です」

 真っ向から謝礼を受けた剣魔Fは、その一言と共にそっぽを向いてしまう。しかし、その頬は少し赤く染まっていた。

剣魔E「あれ、照れてる?」

 それに気づいた剣魔Eが剣魔Fにその事を指摘する。再び鞭が飛んだのは次の瞬間だった。

剣魔F「豚は黙りなさい」

剣魔E「うぎゃんッ!」

剣魔F「こちらの豚も躾が必要なようで」

剣魔E「へ……?ふむ!?むぐぅ!?」

 剣魔Fは目にも止まらぬ早業で、剣魔Eは目隠しと猿轡を噛まされてしまう。そして無理やり四つん這いにさせられ、その背に剣魔Fに腰を降ろされて椅子にされてしまった。

剣魔F「あなたはもう少し豚としての立場をわきまえる事です」

剣魔E「むぅぅ……!」

 赤らめていた顔を一転させ、尻に敷いた剣魔Eに向けて冷たい表情で発する剣魔F。剣魔Fの気恥ずかしさの吐け口として、剣魔Eは虐げられる羽目になってしまった。

剣魔B「あ、あはは……」

 そんな二人を見ながら、剣魔Bは困り笑いの声を零した。


剣狼魔女「はぁ、まったく騒がしいわね」

 周囲が喧騒に包まれ、呆れた声を上げる剣狼魔女。

剣魔A「まったく、やはり若者共は落ち着きという物が足りませぬ」

 それに賛同したのは側に立つ壮年傭兵だった。

剣魔A「そして何よりこの輩。剣狼魔女様にここまでの無礼を働くとはまったくもって信じられぬ」

 壮年傭兵は、傭兵に囲まれ身体検査をされている隊員Nの姿を睨み下ろしながら呟くと、次に隊員Nに向けて口を開いた

剣魔A「よいか、このお方は700もの齢を重ね、我々など足元にも知と御業を蓄えられる剣狼魔女嬢であらせられるぞ。どこの者とも知れぬ輩が逆らい、手を出そうなどと不届き千万!此度で剣狼魔女嬢の仕置きを受け、己が身の程を知ったであろう」

隊員N「ッ……!」

 壮年傭兵の剣狼魔女を持ち上げる大げさな言葉に、しかしそれを聞いた隊員Nは、痛みとは別の不快感を隠そうともせず顔に表す。

剣狼魔女「よしてよ、持ち上げ過ぎよ。それに恥ずかしいけど今回は不覚を取ってしまったわ。私も衰えが見え始めたかしら」

剣魔A「剣狼魔女嬢、ああなんとおいたわしい。では不肖、この私が剣狼魔女嬢の腰かけとなりましょう。どうぞお身体をお安めください」

剣狼魔女「くす、そうね。駄犬達に手本を見せてあげてくれるかしら」

剣魔A「かしこまりました」

 剣狼魔女の命の言葉を受けると、壮年傭兵は胸元から首輪を取り出すと、なんとそれを己の首に巻いた。そして地面に手足を付けて、剣狼魔女の前で背中を差し出すように四つん這いになったのだ。
 そして剣狼魔女は当たり前というように、歴戦の傭兵の背中に腰かけた。

剣魔A「あぁぁ……!」

 少女の体重を感じ壮年傭兵は、その顔に恍惚の色を浮かべた。

剣狼魔女「くすくす、相変わらずいい声を聞かせてくれるわね。あなたほどの熟練した傭兵が、こんな見た目年端もいかない女の尻に乗られて、屈辱ではないのかしら?」

剣魔A「滅相もございませぬ!あなた様からすれば私などまだまだ未熟な坊にございます!誰よりも熟練したアナタ様に使える事こそ、至高の喜びにございます!」

 口で感謝と喜びの言葉を並べる壮年傭兵。しかし実際の所この壮年傭兵は、年端もいかぬ少女の姿である剣狼魔女に足蹴にされる事に興奮しているのであった。

剣狼魔女「さて――どう?剣狼艶女?」

 壮年傭兵の上で息をつきながら、隊員Nの身体を調べていた剣狼艶女に声を掛ける。

剣狼艶女「う〜ん、持ち物とかぁ、お兄さん自身とかぁ、色々興味深いけどぉ……剣狼魔女ちゃんの術が効かなかった原因は、見てみた限りじゃ分からないわぁ〜」

 少し不機嫌そうに口をとがらせながら言った剣狼艶女は、隊員Nから離れると気だるげに伸びをする。

剣狼艶女「は〜ぁ、疲れちゃったわぁ。ねぇみんなぁ、あたしも剣狼魔女ちゃんみたいにお休みしたいなぁ〜?」

剣艶傭兵達「「「は!」」」

 剣狼艶女のねだるような言葉に対して、配下の傭兵達一斉に声を発すると、剣狼艶女配下の傭兵達は我先にと四つん這いになってゆく。三人の傭兵が並んで四つん這いになった所で、剣狼艶女は傭兵達の背中に尻から足を順繰りに乗せていく。

剣艶傭兵達「「「あ、あぁぁ……!」」」

 剣狼艶女の体重を感じ、一斉に嬌声を上げる配下の傭兵達。その周りで役割につき損ねた傭兵達は、その姿をうらやましそうに見ていた。

剣狼魔女「相変わらずな趣味ね」

剣狼魔女は壮年傭兵に腰かける自身を棚に上げ、剣狼艶女達の姿を呆れた目で眺めている。

剣狼少年「ろ、剣狼魔女。おまたせ……」

 そんな彼女の元へ、剣狼少年が甚振られながらもなんとか用意した紅茶を持ってきた。

剣狼魔女「遅いわよ、本当にノロマね。まぁいいわ、ご苦労だったわね」

剣狼少年「あ、うん……ありが……」

 掛けられた労いの言葉に、表情を綻ばせかける剣狼少年。

剣狼魔女「さて、じゃあさっきのお仕置きをしないといけないわね」

剣狼少年「へ?お、お仕置きって……ひぅぅッ!?」

 しかし剣狼魔女から無慈悲な言葉が告げられ、そして剣狼少年の体に電流のような感覚が走った。悲鳴を上げた剣狼少年の身体は硬直したかと思うと。次の瞬間、剣狼少年の身体は彼の意思とは無関係に動き出す。剣狼少年の体は勝手に服を脱ぎだし、あっという間に首輪を残して全裸になってしまった。

剣狼魔女「アナタ、少し調子に乗ってるみたいだし、犬としての立場をもう一度刻み込み直さなきゃいけないようね」

剣狼少年「そ、そんなこと……あぎぃぃ……ッ!?」

 弁明すら許されず、剣狼少年の胸元に刻まれた魔法紋は問答無用で彼の身体を操る。痛みに悶えながらもしゃがみ込まされる剣狼少年。その姿はまさに躾けられた飼い犬も同然だった。

剣狼魔女「ふふ、いい格好ね。駄犬にお似合いのとっても惨めな姿」

 嘲笑いながら剣狼少年の股間に足先を伸ばす剣狼魔女。

剣狼少年「あぅぅ……ゆ、許してぇ……」

剣狼魔女「あら、こんな格好晒されて、おまけに痛みまで与えられたのに興奮してるわけ?本当にどうしようもない駄犬ね」

 許しの言葉を漏らす剣狼少年だが、剣狼少年の心情はあっさり剣狼魔女に見抜かれる。剣狼少年は魔法紋による痛みや、辱めを受けることに快感を覚えていたのだ。剣狼魔女は仕置きと言うように、剣狼少年の陰嚢を足先で圧迫する。

剣狼少年「ひぃ……あひぃぃぃ……!」

剣狼魔女「フフフ……」

 剣狼魔女の嘲笑を受けながら、されるがままに急所を甚振られ弄ばれたる剣狼少年は、だらしなく舌を垂らし、もはや嬌声に近い悲鳴を上げた。



隊員N(ふざけてる……なんなんだこの反吐のでそうな奴等は……)

 満身創痍の状態だが、隊員Nその顔に苦しみよりも嫌悪感を一杯に浮かべ現していた。
 配下の傭兵に当然のように腰かけ、休息する女共。その女共に文字道理尻に敷かれ、嬌声を上げる傭兵共。隊員Nの周囲をぐるりと囲むそんな傭兵達の地獄絵図も同然の光景に、隊員Nは嘔吐感すら覚えていた。

剣狼魔女「それにしても、本当に不愉快ね。何なのアナタたち?特にアナタやさっきのヤツ」

 不快な女の不快な声が耳に届き、隊員Nの視線が否が応にも声のした方向へと動く。
 剣狼魔女は剣狼少年を片手間に甚振りながら、隊員Nへとその視線を向ける。自身の使役獣を甚振った事によりいくらか機嫌は直ったようだが、その幼い顔には未だに不愉快そうな色が浮かんでいる。先程自身を襲った誉と隊員Nの姿が被り、かなりの嫌悪感を抱いているようだ。

剣狼魔女「あんた達にウチの子達が殺された、その報いは受けてもらうわ」

 剣狼魔女の言葉と同時に、配下の傭兵達が一斉に動きを見せた。

剣魔F「お嬢様の手を煩わせるまでもありません。私がやります」

剣魔B「み、皆さん敵となるなら許せません。お手伝いします……!」

 侍女である剣魔Fが静かに言い放ち、剣魔Bも意気込む姿を見せる。

剣狼暴女「ちょっと、あたしにもやらせなさいよ」

 剣狼暴女が剣魔F達の言葉へ割り込みながら、愛用のナイフを繰り出す。
 単純に怒りを表す者、冷たい目線を向ける者、加虐的な笑みを向ける者。女傭兵達の見せる感情は三者三様だったが、隊員Nに向けられる害意だけは全員共通していた。

剣狼魔女「ふん、まあいいわ。まだメインディッシュが控えているわけだし、コイツ一人くらいはあなた達に任せて、ゆっくりと鑑賞するのもいいかもしれないわね」

 そう配下の女達の意思を尊重した剣狼魔女も加虐的な笑みで隊員Nの姿を見下ろしている。
 そして他の女達の殺気が隊員Nに集中する。正体不明の敵、すなわち隊員Nに対しての、復讐を兼ねた悍ましい検証、いや人体実験が始まろうとしていた。彼女達は仲間を傷つけ殺した敵の一味である隊員Nを、徹底的に苦しめ、辱め、痛めつける腹積もりだった。

剣魔G「あぁ……あれは……」

剣魔H「皆、本気で怒っておられる……!」

剣魔I「お、恐ろしいぜ……」

 そんな女達の姿に、恐れ慄き出す周りの傭兵達。

剣艶C「剣狼魔女様や剣狼艶女様方に虐げていただける光栄を捨てるなど、愚かな奴だ」

剣艶D「悪党の末路だな」

剣艶E「まったく、われわれが鞭を頂くことこそ、最高の栄光だというのに」

 中には顔を赤らめ、恍惚の表情でその光景を見つめながら、そんな事を宣う傭兵までいた。

剣魔G「これまでの敵は皆そうだった。俺達のように真実に気づいた者は皆様の虜としていただけたが、愚か者は無残に屠られる……」

剣魔H「あの方々に使えることこそ私達の喜び……」

剣艶C「強く美しい方に従属する喜びを知らぬ、哀れな奴め。奴には、我が主による鉄槌が下るであろう……」

 傭兵達は口々に剣狼魔女を始めとする女達を、恐れそして称える言葉を口にした。

剣狼艶女「あ、剣魔Fちゃん達ちょっとまって〜。魔法が効かないなら〜、ちょっとこっちをためしてみようかしら」

 しかしそこへ、再び剣狼艶女の緊張感の無い声が割り込む。皆が剣狼艶女の姿を注視すると、彼女が手元で何やら行っている様子が見えた。

剣艶C「け、剣狼艶女様、それは……!」

 彼女が弄っていた物は香の一種だった。それを目にした剣狼艶女配下の男傭兵達が狼狽しだすが、しかし剣狼艶女は気に留める様子は無く、粉末状の香にはすでに火が点けられ、当たりにその煙と香りが満ち始めていた。

剣狼艶女「フフフ、これならお兄さんも虜にできそうだけどな〜?」

 淫靡な気配を漂わせながら怪しく笑い呟く剣狼艶女。一分と待たぬ間に香は周囲に充満してゆく。

剣艶傭兵達「「「あ、ひぃぃぃ……」」」

 取り巻いていた配下の傭兵達がへたり込みだしたのはその時だった。次々と眼を虚ろにして、腰砕けになり嬌声を上げながら、地面にへたり込んでゆく。

剣狼艶女「あ〜ぁ、みんなもう骨抜きになっちゃったのぉ?情けな〜い」

 剣狼艶女は腰砕けになった男傭兵達に嘲笑の言葉を浴びせる。

剣狼艶女「フフッ――香りで心をトロトロにしてぇ、体で触れて耳元で罵ってあげるだけで、みーんな永久にワタシの奴隷になっちゃうのよねぇ。男ってホントに悲しい生き物」

 そして台詞で憐れみながらも楽し気な調子で話す剣狼艶女。
 これは剣狼魔女等の使用する魔法とはまた違う、性と艶の知識と魔法役の扱いにたけた剣狼艶女の得意とする、独特な技だった。香の効果と背徳的な魅力を醸す剣狼艶女の姿や言葉、立ち振る舞い。これらを武器に、屈強な戦士ですら抗う事を許さず、尊厳も何もかも全部奪い、彼女の忠実な僕としてきたのだ。

剣艶女D「あはは、情けないなぁ〜。もっと男らしく耐えられないの?」

剣艶女E「ムリムリ、こいつらにそんな根性あるわけないじゃん」

 腰砕けになり、惨めな表情でへたり込んだ男傭兵達を、剣狼艶女配下の女傭兵達が嘲笑しながら取り囲んでいる。そして男傭兵達を小馬鹿にしながら見下ろしていた女達の内の一人が、なんとへたり込んだ傭兵達を甚振り始めた。

剣艶女D「ほらほら、ちょっとは男らしさみせてみなさいよ。【女にいいようになんかされない!】とか前はいってたじゃない?」

 女は、小馬鹿にするように尋ねながら、男傭兵の股間を踏んで回る。さらにそれに続いて他の女達も、同じく男傭兵を踏み出したり、へたり込んだ男傭兵達の顔や体に体重をけかて腰掛け出したりと、男傭兵を甚振り始めた。

剣艶女E「あはは、その後アタシらの色仕掛けで即行腰砕けだったけどね〜」

剣艶女F「今では【女性の皆様に使えることがぼく達の喜びですぅ〜】、とか言って、あたし達に踏まれて喜ぶ立派なオス奴隷だもんね」

剣艶女G「所詮は勘違いしてたオス共だったってわけね〜」

 そして女達は嘲笑を浴びせながら、男傭兵達を虐げる。そこまでされながら、男傭兵達は抵抗の様子すら見せず、虐げられるごとに身を悶えさせて、悲鳴や嬌声を上げるばかりだった。

剣狼艶女「うふふ、あなたたちの立場を再確認するいい機会になったわねぇ。ね?イ、ヌ、ど、も?」

 そして止めに剣狼艶女の艶の含まれた冷たい罵倒を受け、男傭兵達は一斉に嬌声を上げた。
骨抜きにされ配下となった奴隷同然の傭兵達と、それを虐げる取り巻きの女傭兵達。この姿が剣狼艶女隊の実態であった。

剣狼艶女「うふふ、いい子達でしょ〜?中には勘違いして私に挑んで来たり、手を出そうとしてきた子もいたの。でもそんな勘違いした悪い子も、オシオキしたらみ〜んな従順になったわ」

 剣狼艶女は言いながら足置きにしている傭兵のその脚で弄び、配下の傭兵はだらしない表情で嬌声を漏らす。

剣狼艶女「うふふ、みんな我慢よぉ〜?後でたっぷりお仕置きしてあげるからね?」
 剣狼艶女その言葉に、最早玩具でしかなくなった剣狼艶女配下の傭兵達は、嬌声と身悶えでそれに応えた。

隊員N(ッ……吐きそうだ……ッ)

 そんな地獄絵図の続編を見せられた隊員Nは、より酷くなった嘔吐感に耐えていた。

剣狼艶女「あらぁ、ひょっとして効いてないぃ?たまーにちょっと効き悪い人もいるんだけどぉ、ここまで無反応なのはおかしいわねぇ〜?も〜ほんとにガンコなお兄さんなんだからぁ」

 剣狼艶女は配下の傭兵を虐げながら、つまらなそうに口を尖らせる。自慢の技の効果か確認できなかったことは、さすがに心外なようだった。

剣魔F「やはり、もっとコイツの身体を調べて≠ンるしかないようですね」

 変わって出て来たのは侍女の剣魔Fだ。

剣魔F「ほら、動きなさい豚」

剣魔E「むぐぅ!」

 剣魔Fは自身が腰かける少年に鞭を打ち、隊員Nの前まで自信を乗せたまま四つん這いで歩かせる。

剣狼暴女「やっぱり直接切り開いてみないとねぇ。いい鳴き声聞かせなさいよ?」

 同時に剣狼暴女が出てきて、猟奇的な台詞を隊員Nに投げかける。そして剣魔Fが複数のナイフを両手にずらりと繰り出し、剣狼暴女は手元の愛用のナイフをくるりと回して見せた。

剣魔F「お嬢様、触手を何体かお借りしたいのですが?」

「構わないわ」

 剣狼魔女が承諾すると同時に触手が数匹現れ、剣狼魔女は少し複雑な手の動きを見せる。触手の内数匹の命令権を剣魔Fに移す動作であり、それを証明するように剣魔Fが指先を動かすと、触手達はそれに従い彼女の背後へと位置取った。

隊員N「ッ……!」

 女達の布陣に、いよいよもって危機を感じた隊員Nは、満身創痍の身体を無理にでも起こし、この場からの脱出を試みようとする。

隊員N「がぁッ!?」

 しかしモーションを越す前に、触手の一匹がその身を伸ばして伸し掛かり、隊員Nの体を叩くように押さえつけた。

隊員N「が、くぁぁ……!」

 体を圧迫され、苦悶の声が隊員Nの口から零れる。

剣狼魔女「ふふん、無駄よ。人ごときの力で私の触手を押しのけられはしないわ」

 背後から様子を眺めている剣狼魔女の笑い声が聞こえてくる。

剣狼暴女「で、まずどうすんの?とりあえず股間のモノを切りとっちゃう?」

剣魔F「芸が無いですね。まずは指先からです。様子を見てから、触手の力で手か足でも引き千切ってみましょうか」

剣狼暴女「最後は裸に剥いて吊るし上げちゃおうかぁ?」

 悍ましい拷問の算段を交わす女達。

隊員N「あ、ごぁ、ぁ……!」

 その言葉は、圧に苦しむ隊員Nの耳にもはっきりと聞こえてくる。
 触手がどけられ、入れ替わりに二人の女が隊員Nを挟んですぐ真横に立つ。女達の背後周辺には、隊員Nの体を甚振り、解体するために触手が囲い待機している。

剣狼魔女「クスクス」

 そして憎き敵一派の一人たる、隊員Nに対する拷問の開幕に、剣狼魔女が楽し気な微笑を浮かべている。
 配下や仲間を甚振り嘲笑の声を上げる女共と、その女共に甚振られ気持ち悪い嬌声を上げる下僕傭兵達。最悪なまでの光景が並び、そんな中で開始されようとしている隊員Nの拷問解体。

隊員N「や……やめ、ろ……!」

 必死の抵抗を試みるが、度重なるダメージで隊員Nの身体は満足に動こうとしない。
 青ざめもがく隊員Nの姿に、剣魔Fは冷たい顔のまま、剣狼暴女はサディスティックな笑みを浮かべて嘲笑しながら、それぞれのナイフの切っ先を向ける。
 そして隊員Nを徹底的に甚振るべく、その手が伸ばされる――


剣魔F「ブェッ――!?」


 ゴッ、という肉のぶつかる鈍い音が響いたのは、その時だ。そして女の鈍い悲鳴が響く。
見れば、侍女の剣魔Fが白目を剥きながら真横へ吹っ飛んでいた。

剣狼暴女「ごげぇ――!?」

剣狼魔女「ブギェッ――!?」

 いや、侍女の剣魔Fだけではない。
 反対方向へは剣狼暴女が、そして後ろで優雅に休息を取っていたはずの剣狼魔女も。三人の女が不思議な事に全く同時に、その顔にめり込む程の拳骨の跡を付け、鈍い無様な悲鳴をその口から零しながら、中空へ吹き飛んでいた。そして、それぞれの方向に吹っ飛んだ女達は、濡れた地面に受け身を取る事も叶わずに突っ込んだ。
 見れば他にも、剣狼魔女の腰かけとなっていた壮年傭兵は、踏みつぶされたように地面に全身を沈めており、剣狼魔女に弄ばれていた剣狼少年もまた地面に転がり悶えている。

剣魔F「ふぅ!?ふぁ、ふ――びょごッ!?」

 そして、拘束された姿で剣魔Fの腰かけとなっていた剣魔Eが、状況を理解する間もないまま、何者かの脚に踏みつぶされ、悲鳴と共に地面に沈んだ。
 その一連の出来事は、周りを囲い見ていた傭兵達からすれば、誇張なしの本当に一瞬の出来事だった。主や仲間たる女達と虐げられてた下僕達の体が、一瞬の内に投げ散らかされ散乱した光景を前に、動き出すことは愚か、何が起こったのか状況の認識すら追いついかず、立ち尽くしている剣狼隊の傭兵達。

 そんな傭兵達の視線の中心にあったのは、仁王立ちで拳骨を形作った腕を真横に掲げ、比類なき殺意を全身に纏った隊員Dの姿だった。



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